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秋田地方裁判所 昭和25年(行)81号 判決

原告 樋渡太治兵衞

被告 弁天村長

被告 秋田県知事

一、主  文

被告弁天村村長が原告に対し、昭和二十四年七月二十七日なしたる同年度産米農業計画の指示は七十二石九斗五升を超過する部分は無効であることを確認する。

被告知事がなしたる昭和二十五年一月二十一日秋田県告示第十八号は、原告に対しては、七十二石九斗五升を超過する部分は無効であることを確認する。

原告その余の請求は棄却する。

訴訟費用は十分し、その一を被告等の負担とし、その余は、原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、「被告弁天村村長が原告に対し、昭和二十四年四月八日なした昭和二十四年度産米農業計画は無効なること。被告弁天村村長が、原告に対し、昭和二十四年七月二十七日なしたる昭和二十四年度産米農業計画の指示は無効なること。被告秋田県知事がなしたる昭和二十五年一月二十一日秋田県告示第十八号は、原告に対しては、無効なること。訴訟費用は、被告等の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として「被告村長は、昭和二十四年四月八日農業調整委員会の議決を経て、同年度産米供出事前割当の農業計画を樹立し、翌九日これを公表したと称するけれども、該農業計画を樹立し、公表した事実はなく、食糧確保臨時措置法(以下食確法という。)第五条第二項の規定による生産者の意見を徴したことはないから無効である。仮りに、右農業計画が適法に樹立され、公表されたものであれば、法定期間内に異議申立をしない原告に対しては、食確法第七条第一項の規定により右農業計画で定められた原告の供出数量は七十五石八斗一升であるから、これを指示しなければならないのに、同被告は同年七月二十一日弁発経第一〇七号を以て同月二十七日右農業計画の指示として前記数量と異つた七十九石六斗七升の指示書を交付して来たから、前記条項に違反し無効である。なお、右指示書交付に当り日付を殊更に昭和二十四年五月三十日と遡及し、又右変更された数量は不当不公平であるので、原告は異議申立をなし、その受領を拒んだ。そうして右異議申立について被告村長は何等決定をしない。

被告知事は昭和二十六年一月二十一日秋田県告示第十八号を以て、原告に対しその産米を同月三十一日迄に政府に売渡すべき旨の告示をしたが、被告村長の前述のような不適法になした原告に対する昭和二十四年度産米供出割当数量の通告にもとずいてなしたものであるからこれまた無効の行政行為である。よつて請求趣旨記載の判決を求めるため、本訴に及んだ。」と述べた。

被告村長訴訟代理人は、本案前の答弁として、「原告訴訟代理人は被告がなしたる昭和二十四年四月八日同年度産米供出事前割当農業計画の無効確認を求めていたが、昭和二十六年十月十七日の口頭弁論期日に被告がなした昭和二十四年七月二十七日の右農業計画指示の無効確認を求めることを追加的に請求するに至つたのは、請求を変更し、しかも請求の基礎に変更があり、且つ著しく訴訟手続を遅滞せしめる場合に当るから異議を申し立てる。」と述べ、

本案について、「原告の請求は、棄却する。」との判決を求め、答弁として、「昭和二十四年七月二十七日原告主張の文書を原告に交付し、供出割当数量を主張のように変更したこと、原告はその受領を拒み、翌二十八日異議申立をなしたこと及び被告知事が被告の通告にもとずいて主張のような告示を主張の日時になしたことは、いづれも認めるが。その余の事実は否認する。右農業計画を定めるに当り、原告から耕作地の所在地番、反別、家族数等の申告を受け、農業調整委員又は係書記の右事実及び反収その他食確法第五条所定の事項を調査し、充分農業計画に係る原告の意見を徴し、同年四月八日農業調整委員会で議決されたので、各種資料勘案の上決定し、翌九日村役場前掲示板に掲示したところ、原告から異議申立がなかつた(原告の自白するところ。)から、右農業計画は一応確定したのである。しかして原告に対する割当数量については、他の生産者から五十三件の異議申立があつたので、右農業計画にもとずいて、前記調査資料を再検討の上、部落生産者の総意によつて定めるのが妥当と思料し、部落単位協同組合の提出資料により同年七月十六日農業調整委員会の議決を得て原告に対する割当量七十五石八斗一升を七十九石六斗七升と増加変更したが、その後知事から災害減収について減少指示があつたので、七十六石八斗一升と変更したものである。なお、この数量は原告と同一条件の生産者、原告の実収高及び昭和二十五年度供出数量と比較して不当、不公平なものではない。食確法には農業計画の指示を受けた後の異議申立をなし得る規定はないから決定しなかつたもので、被告村長の供出割当手続は違法ではない。仮りに、右手続に不備があつたとしても、主要食糧の確保は国民総ての生活に重大な影響があるから些細な形式的手続上のかしは公共の福祉のためにも救済されるべきである。米の生産者は(飯米を除いて)供出する義務があるので、原告が根本から農業計画の無効であることを主張して同計画を争うことは数量の点ならば格別、不当であるから原告の請求には応じられない。」と答えた。

被告知事指定代理人は、「原告の請求は棄却する。」との判決を求め、答弁として、「原告主張のような告示を被告村長の通告にもとずいて主張の日時に発したことは認めるが、被告村長が原告に主張の農業計画指示書を交付し、原告はその受領を拒んだこと及び原告が主張の日時に異議申立をなしたことは知らない。その余の事実は否認する」と答えた。

原告訴訟代理人は、被告村長訴訟代理人の主張事実に対し、「被告知事による災害補正の事実及び農業計画指示に対し異議申立をなした事実は認めるがその余の事実は否認する。異議申立があり、これが理由があつた場合は異議申立人相互間で案分決定しなければならない(異議申立をしない原告の数量を変更することはできない。)その結果食確法第四条の指示された農業計画に変更を生ずるときは、同法第六条第三項以下の適用を受ける。若し異議申立人であると否とを問わず変更できるとすれば同法第六条の規定は殆んど不必要になる、同法第五条法定の農業計画について些細な事項を調査して計画を決定する実益はない。仮りに被告村長が昭和二十四年四月八月前記農業計画を樹立したとしても、その後実態調査にもとずかないとの批難を受け徹回している。」と述べた。(各証拠省略)

三、理  由

第一被告弁天村村長に対する請求について

(請求の変更について)

原告は初めその主張の供出義務不存在にもとずいて、被告が昭和二十四年四月八日樹立した農業計画の無効確認を求めていたところ昭和二十六年十月十七日の口頭弁論期日に、被告がなした昭和二十四年七月二十七日の農業計画指示の無効確認を求めることに、その請求を追加的変更をしたことは、記録上明かであるが、請求の基本である供出義務不存在は前後同一のものであるから、請求の基礎を変更したものとは認め難く、又原告の請求を変更したのは、旧請求に対する被告の主張をそのまま採用した結果であつて、訴訟手続を著しく遅滞させるものとは認め難いから、原告のなした請求の変更は許さるべきであつて、被告の異議は理由がない。

よつて本案について判断するに、

(農業計画について)

原告訴訟代理人は、被告は昭和二十四年四月八日同年度産米割当農業計画を樹立したことも、公表したこともなく、又生産者の意見を徴したこともない。仮りに右農業計画を樹立したとしても、その後撤回していると主張するが、成立に争いがない甲第七号証、乙第一号証の一、二、同第二号の一、二、同第八号証、同第九号証の一、二、同第十号証、同第十一号号証の一、二、同第十二号、同第十三号証の一、二に証人大山文一郎、同渡辺源吉、同松田大太郎、同阿部竜太郎の各証言を綜合すれば、昭和二十三年十二月三十日農業調整委員会生産者代表が全村に亘つて、作付不能地を調査し、翌二十四年二月上旬生産者より作付反別の申告を受けたが、これによつては確実のところは得られないので、同月二十六日農業調整委員会書記と村役場書記との二名で一筆調査をし、その結果にもとずいて、各生産者に当つて反別と人口との誤差を調査し、生産者の意見を徴し、右資料によつて昭和二十四年四月八日農業調整委員会の議決を経て決定し、翌九日から十日間村役場前の掲示板に公表し、爾後この農業計画にもとずいて供出手続が進められていたので、撤回の事実を認めることはできない。右認定に反する成立に争いがない甲第六号証、証人石山音吉、同大山文一郎の各証言の一部及び原告本人の供述は前掲各証拠に照し信用できない。他に原告主張の事実を認めるべき証拠はないから、原告のこの点の主張は採用しない。

(農業計画の指示について)

被告訴訟代理人は、被告の樹立した農業計画に対し多数の異議申立があつたので、原告に対する供出割当数量の増加して当初の農業計画を指示したのであると主張し、原告訴訟代理人は、異議申立をしない原告の供出数量を変更したのは違法で指示として効力は生じないと主張するを以て案ずるに、被告が原告に対し農業計画の供出数量を増加して指示したことは当事者間に争いがないところ、食確法第七条第一項の規定によると、異議申立をなした生産者に対しては、同法第六条第二項の規定によつて村長は農業調整委員会の議決を経て決定し、この決定にもとずいた農業計画を指示しなければならないが、異議申立をしない生産者に対しては、当初の農業計画を指示しなければならないのは明らかであるから、被告の原告に対する指示は違法の行政処分である。そこで、右違法な指示は無効であるか否かについて、考えるに、食糧管理法第三条の規定は米麦等の生産者にその生産したる米麦等を政府に売渡すべき義務を課しその方法として食確法は供出を確保するため公正に供出数量の割当等を行うことを企図しているのであつて、本件においては、被告が右四月八日樹立した農業計画を公表するや多数の異議申立があり、被告は食確法第四条の指示を変更できない事情があつたため、これが問題解決に日時を費していたが、監督庁その他関係方面からの強い要請により農業計画の指示を遷延することのできない状態に至つたので、右農業計画を基本として生産者の総意を盛り込んで、農業調整委員会の議決を得てその供出数量を決定し、早急のうちに指示したことの事情(成立に争いがない乙第一号証の二、甲第一、二号証、証人松田大太郎、同石山音吉、同渡辺源吉、同大山文一郎、阿部竜太郎及び同柿崎辰治郎の各証言の一部により認められる。)を考え合せると、被告が異議申立をしない原告の供出数量を増加変更しても、右四月八日の農業計画を七月二十七日に指示したものと解するのが相当である。しかして、右指示により原告は産米の一定数量を政府に売りわたすべき具体的義務が発生し(食糧管理法第三条)、この義務を履行しないときは罰せられる(前同法第三十二条第一項)等の重要な効果の発生する点からみれば、たとえ、如何なる困難な事情があるにしても供出数量の増加指示は法律に許容される場合の外は許されるべきではない。そうだとすれば、被告の原告に対する指示は農業計画により公表された七十五石八斗一升の範囲で有効であり、これが違法性は治癒されるものと解するを相当とし、右数量を超過する部分については無効であるといわざるを得ない。かく解すればとて、原告は公正妥当な供出割当を希望していると窺い知ることができるから(原告は異議申立をしないのに農業計画を変更した指示の数量を不当、不公平であると主張している。)、原告の意思に明らかに反し、又著しくその利益を害することにはならない反面、このように解することによつて、社会的利益にも合致すると思料せられる(以上の通り原告の農業計画を変更した数量は不当不公平であるとの主張は理由がない。)。従つて被告訴訟代理人主張の形式上のかしは公共の福祉により救済さるべきであるとの点は、前認定の通り本件には適用できない。

更に被告訴訟代理人は、農業計画そのものを争うのは不当であると主張するが、行政処分にかしがあれば(被告の本件かしは形式のかしとはいえないこと前認定の通り。)その行政処分自体の効力を争うことはできるから、この点の主張も採用しない。

なお、原告が右指示に対して異議申立をなしたことは当事者間に争いがないが、食確法は右指示について異議申立を認めていないからこれを決定しなくとも何等違法とはならない。そうして原告訴訟代理人は指示に当り日付を遡及したと主張するけれども、右指示は前認定の通り七月二十七日になされたものであるから、右指示が供出を不可能ならしめる程度に遅滞していた等の事情がない本件に付いては、日付の遡及したこと(成立に争いがない甲第三号証の三)は本件認定を左右するに価しない。

以上判断したように原告の供出義務は七十五石八斗一升であるが、右指示後被告知事からの災害減収について減少指示があつたことは当事者間に争いがないから、反証のない限りこの数量二石八斗六升(被告の主張から算出)は、右七十五石八斗一升から差引かるべきであるので、これを控除した七十二石九斗五升を超過する被告の原告に対する昭和二十四年七月二十七日の指示は無効である。

第二被告知事に対する請求について

被告の昭和二十六年一月二十一日秋田県告示第十八号による原告に対するその産米を売渡すべき告示は、被告村長の通告にもとずいてなしたものであることは当事者間に争いがないところ、被告村長の原告に対する供出指示は前認定の通り七十二石九斗五升を超える部分は無効であるから、被告の右告示が食確法第七条第四項の規定にもとずくものであるとの主張立証のない本件については、右告示についても七十二石九斗五升を超える部分については無効であるといわざるを得ない。

第三結論

以上判断の通り七十二石九斗五升を超える部分について、原告に対する昭和二十四年七月二十七日被告村長の指示及び昭和二十六年一月二十一日秋田県告示第十八号は無効であるからこの範囲で原告の請求を認容し、その余は失当のものをして棄却することとし、訴訟費用については民事訴訟法第九十二条第九十三条を適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 百武一 安田忠治 荒井徳次郎)

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